とある映画好きの備忘録

良い映画を観終わった後、感想を書かずにはいられない

Marley&Me(2008)

完全に不意打ちだった。プラダを着た悪魔と同じ監督でオーウェン・ウィルソンジェニファー・アニストンのラブコメディというプライムビデオの紹介に釣られて視聴したので、まさか犬好きを全力で泣かしに来るとは思いもしなかった。しかし、実を言えばこの作品は昔観た事があった。ただ、その時は「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」という邦題でしか認識していなかったし、俳優にも詳しくなかったのでので今回は観てみるまで気づかなかった。サムネイルにもう少しマーリーをアップで載せてくれたら気づいたかもしれない。

こういう訳で、Marley(ジェニファー・アニストン)とMe(オーウェン・ウィルソン)のラブコメディを期待して視聴開始したのだが、冒頭から違和感を察知し、徐々に確信に変わっていった。そして、終盤泣くことを覚悟した。

私は決して涙もろくない。感動系の映画も観ても感動はするが、涙は意志の力で抑えられる。この前この作品を観た時も泣かなかったはずだ。だが、当時と比べある程度人生経験を積み、マーリーみたいな犬を飼う自分にとって、マーリーが弱り始めてからはテッシュなしでは観られない。

確か「僕のワンダフル・ライフ(2017)」もそうだったと思うが、世の中には犬好きを容赦無く泣かせにかかる要注意映画がいくつかある。Marley&Meはその代表格だと思うので、犬好きの方々はプライムビデオの紹介に騙され不意打ちを食らわないよう注意し、是非覚悟してこの作品を観ることを勧める。

最後に付け足しておくと、ラストの涙と共に流されてしまいがちだが、困難を共に乗り越えて行く二人の夫婦関係も名演されている。

イエスタデイ(2019)

私は、基本的にはamazonのprime videoで映画を観ている。prime videoでは映画の予告編を見る事ができ、私は本編と同じくらいに予告編を観るのを楽しんでいる。今日も予告編を見漁っていると、明らかに面白そうな映画を発見した。よって、前から知っていた訳ではないが中々の期待を持ってイエスタデイを視聴したのだが、その期待を余裕で超えてきたので感想を書きたいと思った。

まず、第一に設定が面白い。自分以外誰もビートルズを知らない世界なんてよく思い付いたものだ。ビートルズのイエスタデイを歌って「何その、良い曲?」みたいな反応のところは最高に面白い。また、ジャックの声も素晴らしい。ここに関してはアイデア勝ちみたいな所はあるが、実はこの設定の他にも見所はたくさんある。

例えば、予告編では強調されていなかったが、恋人未満の期間が長く互いに素直になれない男女の関係が、この奇抜な設定を通して巧みに描かれている。意外なことに、恋愛映画としても中々の満足感があった。

あとは、エドシーランの本人出演がかなり盛り上がる。ビートルズの曲がエドシーランに発掘されるという音楽史的に興味深い展開もあるが、何より映画にエドシーランが出ているという事実が新鮮で面白かった。途中でちゃんと歌ってくれるシーンもあるし、非常に贅沢を味わえる。

最後に個人的には、ジャックの父やロック等のジョークが非常に好みだった。特にジャックの父が偉大なアーティストを軽率に扱うノリがツボだった。

自分が勉強不足なだけかもしれないが、隠れた名作を見つけてしまったと思う。観終わってからビートルズを聴きたくなる映画。

 

 

「ラ・ラ・ランド」(2016)

私が初めてこの作品を観たのは確か中3辺りだったの思う。その時は、正直あまり面白いと思わなかった。横で観ていた母だけが感動していて腑に落ちなかった分よく覚えている。しかし、高校生になって再び観た時は全く違った。こんな面白い映画があるのかという驚きと共に、子供には分からない感動がある事を初めて実感した。その後も何度も観たし、観る度に深みが増してくる。迷いなく私の最も好きな映画の一つと言える。今日は、数年ぶりに観て思った事を書いていきたい。

 

まず、この映画はあらゆる面で優れすぎていて、感想を書く側からすると何から書けば良いのかが分からなくて困る。役者の演技、感情と音楽のマッチ、音楽そのもの、たまに出て来るジョーク、ストーリー、と、ひとつずつ挙げていたらきりが無い。

しかし、今書いていてふと思ったが、ストーリー自体は実は平凡なものである。主要な流れだけをまとめると次にようになる。二人の夢を持った男女が恋に落ちるが、夢を追い続けるべきか否かで揉めてしまう。その後、二人は互いを愛し合いながらも夢のために別れる。二人は互いのおかげで夢を叶えるが、別々の人生を歩むこととなる。

ここでの平凡とは、ストーリーの奇抜さを狙うことによって他の美点を損なうようなことがないということである。要約してしまえばありきたりなこのストーリーこそが実は、セブとミアの関係の美しさ、別れの儚さを、一切邪魔することなく引き立てるのに完璧な役割を果たしている。全体的なストーリーだけでなく、ミアがセブの仕事について親と電話するのをセブが聞いているシーンの伏線等に見られるように、細部の構成も抜かりがない。良い演技と音楽で駆け抜けたというより、あらゆる無駄を排除した完璧主義的なこの映画の側面に気づく。

この平凡なストーリーのおかげでラ・ラ・ランドミュージカル映画にもかかわらず大変リアリティーがある。別にここで言うリアリティとは、実際に丘の上で急に歌ってタップダンスを始める男女が多いという話ではない。この作品には他にも、宙を歩いたりと、表面的には非現実的なシーンがあるが、これらのシーンは二人の心情を反映させた映像だと捉えればこの上なくリアルである。むしろ、好きな人と夜のプラネタリウムで踊るのに地に足がついている方が不自然である。これらの映像は音楽と共に登場人物の精神世界を映したものとなっており、彼らを外から見た様子を忠実に映像化したものよりかえって感情移入しやすい。

このような音楽、映像技術、さらには二人の出会い方などによって二人の関係はこの上なく魅力的に描かれており、前半だけで十分面白い映画なのだが、ラ・ラ・ランドが傑作たる所以はやはり、後半の二人の関係に亀裂が入り始めてからにある。もっと言えばラスト10分店でセブがミアの存在に気づいてからにある。

仮にこの映画のテーマを一つに絞れと無理強いされたら、私は「別れの切なさ」と答えるだろう。より主観的には、ラストシーンで遠くのミアと見つめ合い頷くセブの心境を想像し、その格好良さに悶絶するのがこの映画の楽しみ方だと思う。セブは、例え自分がそばにいる事がなくても、最後までミアの夢を応援し、ミアが夢を叶えられたことを純粋に祝福しているのである。セブのこの優しさに気づかないミアではないので、余計に別れが切なくなる。そして、二人は今更実現しないことは承知しつつも、別の成り行きで二人が一緒になっていた世界を想像してしまうのである。二人が互いを愛し合いながらも一緒になることはないという切なさを、最後の想像世界と二人の表情がこの上なく美しく物語っている。

ブロクを始めた動機

良い映画を観終わった後の、感動に包まれつつも少し寂しいような、あの何とも表現し難い感覚。映画好きなら誰しも経験したことがあるはずだ。しばらくあの感覚に浸りながら落ち着かない時間を過ごすのも悪くはないが、最近せっかくならあの感覚を言語化してみたいという欲求が芽生えた。よって、自分で読み返せれば十分なわけではあるが、せっかく書くなら他人に読まれ得るという緊張感の中で書いた方がまともなものができそうな気がするのでブログで書くことにした。また、あの感覚を他人と共有することができるなら、それ自体が趣深いことだ。この動機から明らかなようにネタバレに関する配慮は皆無なので、了解頂きたい。